2010年12月09日
青森新幹線開通記念
30ウン数年の悲願だったそうである・・・
むかし、仙台まで新幹線が開通する頃のこと
わが郷土の作家・藤沢周平氏が、そのエッセイに
「果たして新幹線は東北にとって幸福を運ぶ列車となるのか」
と疑いと憂いを込めて綴った。
例えば、京都などはいくら観光客が来たとしても破壊されるよ
うな事はない、したたかな文化があるが、東北にあるのはそれ
とは全く別の、繊細で傷つきやすい自然や人情である、と
けれども最後には、「全くの杞憂かもしれない」とも書く。
東北もまた、簡単には滅びないしぶとさ、柔軟さがあるのだ、と
さて、今さらながらの新幹線、これは青森に何をもたらすのか?
かつて新幹線のない時代、庄内から東京までは特急列車一本
で約6時間かかった。幼少の頃、母と姉と3人で東京へ行く時は
これに乗って、楽しい時間を過ごし苦痛は感じた覚えがないが、
青森から東京までは8時間かかったそうだ。
『3丁目の夕日』の時代などはSLで15時間か、それ以上だ。
青森出身の東京在住者が、山形や仙台からの上京者よりもどこ
か意志強固なものを感じさせるところは九州からの上京者などに
近いところがあり、それはやはり
「故郷には簡単には帰れない」 「故郷は捨ててきた」
という諦観や覚悟があったからかもしれない
おそらく、そのあたりの強烈な気質などは、今後変化していくの
かもしれない。
それにしても、今回の事で思いを巡らすのは、次のような事だ。
@東京が近くなった事で、仙台までで留まっていた青森人たち
が素通りして大勢、東京へ向かってしまうのではないか(笑
・・実は、仙台には青森出身者がとても多い。もともと、東北中
から人々が集まってきているが、仙台に親近感を持ち自ら乗り
込んでくる山形人と違い、底知れぬ爆発力を秘めた青森人は、
本心では仙台では満足せずに、できればもっと遠く、東京まで
出てしまいたいと考えるものなのではないか・・・と勝手に想像
するのである。それが行きやすくなったとなれば、尚更だ。
更なる東京一極集中、富を吸い上げられる地方の疲弊
とくに、東北地方の人口の減り方は近年すさまじいものがある
という。豊かな大都市に住みたいと思うのは自然の事。だが、
その富は地方、この東北の困窮と引き換えのものなのだ。
わたしは東京が好きだが、その理不尽にせめて抵抗するため
にも、この東北へ戻ってきたのである。
もちろん、新幹線の持つ将来性はそんな面ばかりではない。
藤沢周平氏は、こうも書いていた
「私の望む、東北の『中央並み』とは、東北が中央に染まる事
ではない 逆に中央を東北に取り込んでしまう事である」
(*手元にその本がないので正確な抜粋ではないが、要点は
おさえた)
仙台も、盛岡も、新幹線によって「ミニ東京化」は確かに進んで
しまったかもしれない。けれども東北人たちの東北への眼差し
は変わり、人々は確実に集まり、住み続けている。
青森もまた、その独特の才能で東京を逆に取り込んで、青森人
を育て独自に発展した姿を見せて欲しい 心から願う。